daysofteaandmusicの日記

イギリス博士留学体験記(人文系・音楽学)

最近のこと(博論進捗状況、IMS2022への参加、英語のこと、ジャズのこと)

はやくもイギリスでの博士の一年目が終わろうとしている。はやい。前回の更新からも時間が経ってしまった。時間が経ちすぎて文体が変わった。「ですます調」で書いていたことを忘れてしまった(後から気づいた。また戻すかもしれない。)

 

 

研究についていえば、最近はアップグレードに向けての準備に注力している。

 

「アップグレード」とは、イギリスの博士課程で博士論文提出のための必要な一種の試験のようなものである。試験といってもアメリカのQualifying Examのようにテストを受けるのではない。どちらかというと日本の中間報告に近いかもしれない。大学によって要求されるものは異なるが、自分の場合は、研究計画、先行文献レビュー、事例研究一章の三点の提出+面接が求められる。

 

今は事例研究の章を書いている。事例研究、と言っても一次文献を扱える能力を示すことが主目的なので、論理的な議論に基づいた何らかの主張を行う必要はない。今回の章では日本の事例を扱うので、日本語を適切に読み・英語で正確に表現することを示せれば良いと考えている。

 

今日はそれについて指導教官との面接に行った。

特に印象に残っているのは、分析結果を文章でどう表現するか?ということを質問したときのことだ。具体的には、ストーリーとして提示するか、あるいは一種の一覧表のような形で表現するか悩んでいた。それに対し、指導教官の答えは、博論の執筆自体が一種の実験の場であるから、書きながら、自分のベストと思う方法を選択すべしというものだった。人によって無責任ともとるかもしれないが、実際、どちらの方法論にも長短あり、また、それ以外の方法も考えられうる現状としては納得の答えだった。博論の章構成についても相談したが、同じような回答であった。ただ、これについては現在の段階では最も「ロジカル」と思える構成にするように勧められた。

そのほかについて、近々する予定のインタビューの質問について相談した。面白いなと思ったのは、「あなたにとって何が一番関心があることですか?」と必ず聞くように勧められたことだ。当たり前すぎて忘れがちな視点だと思った。

 

 

執筆以外に研究に関連するもので言うと、先月はギリシャに行き、国際音楽学学会に参加してきた。参加といっても、発表はせず、発表を聞くだけのために。それだけのために参加費+旅費に10万近く費やすのは馬鹿げているという人もいるだろうが、5年に1回の開催で、自分の専攻分野、かつ、会場が(日本からよりは)近いということで参加した。

聞いた発表の一つ一つに思うことはあるけれど、本人が読まないここに書いても無意味なので書かない。

ただひとつ感想として印象論を書くと、「西洋音楽」の音楽学のアプローチは、民族音楽学ポピュラー音楽学がメインの自分には、少し相いれないように思えた。特に、作曲家が生きている場合でも、作曲家本人に話を聞いたりしない点で。もちろんあえてそうしない理由も想像できる。例えば、作品を作曲家の創造物とみなすことに対する拒否反応とか、批評家的距離感の重要性だとか。でもやはり自分としては作品の作り手の見る世界に関心がある。多分、音楽家になりたかったけど諦めて音楽学の勉強を始めたことにも関係があるのだろう。とにかくこの経験を通じて、そういう「当事者」たちのナラティブをできるだけ意識的に組み込むように努力しようと決意したのだった。

といっても西洋音楽的な批評方法論(?)が嫌いとかではなく、最近はシェーンベルクのエッセイを読んだりしている。大変面白い。

 

 

 

もう一つ、思ったことは英語に関することだ。

さすがにイギリスにもう一年半近く住んでいるし、面談も毎回こなしているので、まあまあ必要な英語力はあると思っていた。

しかし、学会で質問をしてみて気づいた。

通じない。聞き返される。正確な意図が伝わらない。

今回は質問をした相手の発表者たちはみな優しく、発表後に話をさせてもらう機会が得られたが、現実を知れてよい経験だった。

 

 

 

研究以外のこととしては最近はジャズのことを考えている。

ロンドンのジャズシーンを知るためにセッションに行かなくては!と思い立ってリハビリを開始してから1年が経った。

もう15年近く弾いているのにいまだに「ジャズっぽく」アドリブを弾けないと悩んでいたが、結局、根本的な問題は特定のスタイルを何も習得していないということだと今更気づいた。ので最近は特定のスタイルに対象を絞ってひたすらコピーばかりしている(ソニー・クラーク、フィニアス・ニューボーンJr.、大西順子あたり)。ただ、興味が移りすぎて、すぐに違うスタイルのピアニストを勉強したくなるので難しい。キース・ジャレットとか。また、結局のところ、好きな様々なスタイルの中からどれを自分のスタイルとして選んでいくかというずっと先の問題についてまで、無駄に悩んだりしている。ただ採譜してみて、印象論で理解していた部分が、実際のフレーズとして理解されるのは面白い。